第6話「今までと違うもの」 第1章
「冒険の始まり」

 『遺跡』とは、この移り行く世界において今の文明の前、すなわち創造者2人が現れる前の文明から残っている建造物のことである。
 世界各地に多数点在しており、それでもまだその半数が見つかっていないものとされている。
 遺跡の中には仕掛けが施されていて、また森の属性を持っているために魔獣が住みついていることも多いので、一般人は立ち入るどころか近づくことも許されていない。
 中に居ついた魔獣が人に危害を加えたとき、冒険者連合から賞金がかけられるのだ。
 もちろんかけられる前でも倒せば賞金は手に入るが、情報が出回らないために倒そうと動く人は少ない。

 とにかくそんな『遺跡』の1つ、リルフィード村遺跡に足を踏み入れたカンナたちはといえば――

 「くっそーっ! また行き止まり!?」

 見事に迷っていた。

 いや迷ってはいない、はずだ。来た道はわかっているのだから。
 ただ先に行く道が見つからないだけで。

 「ナラル、落ち着きなよ」

 フェイルが溜め息をつきながら言った。

 「これが落ち着いていられる!? 何回目だと思ってるのよっ!」

 途端ナラルはフェイルを睨みつける。

 「10回目だろ」

 しかし慣れたようにフェイルは素っ気なく言う。

 「そういうこと言ってるんじゃなーい!」

 やり場のない怒りを地面にぶつけるように、ナラルは地団太を踏んだ。
 そのやりとりを後ろから眺めつつ、カンナは少し羨望で目を細める。

 いいコンビだと思った。
 フェイルは受け流すことができ、ナラルも必要以上の八つ当たりはしない。
 致命的な喧嘩をしないということ。
 その大切さを、カンナは知っていた。


「さよなら神無」

どうして!?

「もう疲れてしまったの」

行かないで

「私のせいじゃないのに……っ」

行かないで!!


 「……ンナ……カンナ!」
 「……! あぁ、何だ?」

 物思いに沈んでいたカンナは、少し瞬きをしてフェイルに焦点を合わせる。

 「大丈夫? ボーっとしてたけど」

 いつの間にか復活していたナラルも、心配そうに横から覗き込んだ。

 「ありがとう、大丈夫だ」

 カンナがそう言って安心させるように笑うと、つられるようにナラルも笑って頷く。

 温かいな、と思う。
 今まで一緒に行ったパーティの中では、こんな風ににこやかな会話はなかった。
 その原因が人間のくせに魔力を持っている自分だというのはわかっていたけれど。

 お互いに笑いあう2人を呆れたように見ていたフェイルが、

 「それより、遺跡の中だからわからないけど、もう少しで日が暮れる時間だよ」

 と言って、ちらりとカンナを見る。
 その言わんとするところを理解して、カンナは頷いた。

 「じゃあ先に続く道を探すのはまた明日にして、今日はここで休むか」

 ここに来るまでずっと歩き通しだったのだ。
 たとえ感じなくても相当消耗しているはずだ。
 このまま無理に歩き回って、肝心の魔獣に会ったときに疲れて戦えないなんて笑い話にもならない。

 「そうだね」

 フェイルは満足そうに頷いた。
 その表情に、自分が置いてきぼりになっていることに気づいたナラルが口を挟む。

 「じゃあ今日はここで野宿?」
 「そういうこと」
 「でも罠が張ってあるかもしれないじゃん!」

 もっともなことだ。
 遺跡には、侵入者避けのトラップがいたるところに張ってあるのである。
 その台詞が意地張りの一種だと言うことも明白だったが。

 「何当たり前のこと言ってるのさ」
 「だーかーら! 解除しなくていいの!?」

 フェイルがフンと鼻で笑う。

 「もうとっくに解除したよ。君が馬鹿やってる間にね」
 「ウグッ……ごめんなさい……」

 思い当たるところがありすぎてナラルは言葉につまり、結局謝った。
 さっきとは違ってとても素直に。

 「別にいいけどね」

 フェイルも必要以上には突っ込まない。

 カンナはその様子を微笑ましく眺めながら、持って来た荷物を地面におろした。

 NEXT or BACK