第16話「月の光の下で」 | 第2章 「森の中で」 |
「悪かったな、ホントに。ごめん」
レオは申し訳なさそうに手を合わせた。
カンナとナラルは顔を見合わせ、カンナの目を見たナラルはにっこりと顔に笑みを浮かべてレンカたちのほうを見る。
「いーよいーよ。別に怒ってないしさ!」
「ナラル?」
相変わらず怒ったような顔で相手を見ていたフェイルは、驚いたように幼馴染を見た。
「いいのか? 許しても。そっちのやつは謝ってすらないのに」
「だぁから怒ってないのに謝ってもらう必要ないんだって! 驚くのも戸惑うのも当たり前のことでしょ? カンナも怒ってないみたいだし、だったらそれでいいじゃない」
フェイルは問うような視線をカンナに向ける。
それを受けてカンナがこっくりと頷くと、フェイルは溜息をついて瞳から怒りを消した。
「まぁ2人がいいんだったら僕が怒る理由はないね」
「そっか、良かった。な、フルー?」
レオは表情を緩め、先程から黙ったままの相棒を見やった。
フルーは俯き答えない。
レオは苦笑してその頭を優しく叩き、ことさら明るい調子でカンナたちに話しかけた。
「で、ナラルたちはやっぱりナルレストに行くんだろ? ここを通るってことは」
「うん、そうだよ」
「俺たちもそうなんだ。なあ一緒に行かないか? 入り口まででいいからさ」
申し出に驚く3人を見ながら、頭をかいてレオは言う。
「もしかしたら、またあのソーサリーが来るかもしれないだろ? 俺の武器も壊れちまったし、大人数のほうが安心だし。それに――」
ニカッと人懐っこく笑って、
「大勢いたほうが楽しいしな!」
ナラルはうんうんと大きく頷いて答える。
「そうだよね、やっぱり大勢いたほうが楽しいよね! ねっいいでしょ、カンナ、フェイル?」
カンナは頷きながら微笑む。断る理由は見つからなかったし、嬉しかったのも確かだった。
フェイルも苦笑して異論は唱えない。
ナラルは仲間の反応を見て、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「じゃあごちゃごちゃしたし改めて自己紹介な。俺はレオ、こっちのやつはフルーだ」
「僕はナラル。こっちがフェイルで、彼女がカンナ。僕とフェイルは幼馴染で、カンナとは最近知り合ったんだ」
「ナラルとフェイルとカンナな。よっし覚えた! じゃあナルレストまでよろしく」
「うんっ、よろしくね」
レオとナラルはすでに仲の良い友達のように、目を合わせて笑った。
そして夜。
見張りのために起きていたカンナの耳に、柔らかい声が届いた。
「カンナさん」
そちらのほうを向くと身を起こしたフルーの姿が目に映る。
「何だ?」
体ごとそちらを向くと、フルーは少しだけ不安そうに瞳を揺らした。
カンナは首を傾げ、思い当たることがあってちょっと笑った。
「ああこの口調はもともとなんだ。気にしないでくれると嬉しい」
「そうなんですか」
フルーは安堵のためか軽く溜息をついて、そして深呼吸をした。
いきなり頭を下げる。
「今日はすみませんでした。失礼なことを言ってしまって」
「え、いや別に気にしてないし――」
「いいえ、僕が気にするんです。それに」
フルーはそこで言葉を切って俯く。
何かを堪えるように再び話しだした。
「僕だってスプライトのくせに魔力がなくて、だからわかります。あなたたちが気にしていないはずありません」
フルーは目線を上げてカンナを見る。
今度はカンナが黙った。それは確かに本当だったからだ。
フルーはやっぱり、と少し悲しそうな顔をした。
「きっと世界の理なんて関係なかったんです。あなたたちの魔力が羨ましかっただけなんです。
魔力を感じて戻ってきたら、その魔力はあなたたちのもので、つい頭に血が上ってしまって」
「うん。なんとなく、わかる」
「だからあなたたちの事情なんて全く考えなくって……。本当にすみません」
そう言ってフルーはもう一度頭を下げた。カンナは慌てたように手を動かす。
「そんな何回も謝らなくてもいい。もう充分だ。そうされるとどうすればいいかわからなくなるし」
顔を上げたフルーと目があってカンナは微笑む。
怒ってなんかいなかった。逆にこの頃出会う人たちはみんなとてもいい奴だ。ナラルもフェイルもレオも、フルーも。
「これからナルレストまで一緒に行くんだろう? だったらもう仲間だ。よろしくな、フルー」
焚き火がカンナたちの頬を照らす。
月の光はそれよりも明るく、等しく森を照らしていた。