第12話「旅をする者」 第2章
「森の中で」

 「お前らこの先に何のようだ!!」

 金の瞳はまっすぐにカンナたちを射抜いた。
 咄嗟に言い訳の言葉を紡ごうとする口を、カンナは閉じる。
 どんな言葉も彼女に耳を傾けさせることはできなさそうだった。
 視線に射竦められ、動けないでいるカンナたちの中で、一番最初に復活したのはいったい誰だったのか。

 「ファイアリックランス!!」

 鋭い声と共に、炎が一直線にソーサリーの少女へと向かう。
 守るように少女を包んだ葉は次々と焼け落ち、威力を落とされた炎はそれでも少女の頬に焦げ跡をつくった。

 キッと睨みつける目に敵意が増す。
 風もないのに、木々がざわざわと揺れた。

 「敵意ありと判断する」

 少女はその瞳に反して静かに告げる。
 もう一度呪文を唱えようとするナラルをフェイルが止め、そのまま手を引いて駆け出した。

 「何するのよフェイル!?」
 「戦って勝てる相手じゃない! カンナ! 逃げるよ!」

 カンナも頷き、フェイルの後に続いて走り出した。

 走り去る3人の姿に、ソーサリーの少女はほっと一息吐いて自分の後ろを見た。
 すぐ先に見える木々の茂みの向こうには、少女の生まれた集落がある。
 カンナたちは道に迷い、ソーサリーの集落傍まで来てしまっていたのだ。
 少女は久しぶりに生まれ故郷に足を踏み入れようとする。

 そのとき、上から降ってくる声があった。

 「あいつら……っ!!」

 少女は憎々しげにそう吐き捨てて、身をひるがえし先程カンナたちが消えた方向へと駆け出した。







 どれくらい走っただろうか。
 どこを走ったかもわからなかった。
 けれどナラルがフェイルの手を振り払ったところで、それは終わった。

 「もうフェイル! 何するのよ!」

 息を乱しているカンナと違い、ナラルは振り払った瞬間から、フェイルにまくし立てる。

 「目の前にソーサリーがいたのに! なんで止めたりするの!?」

 どこか必死に言うナラルに、フェイルは少し息をついた。
 呆れたのではない。少し乱れた息を整えるために。

 「あのねぇ、ソーサリーは魔獣と違うんだよ?」

 少し諭そうとする響きを帯びたフェイルの言葉に、しかしナラルは首を振った。

 「魔獣もソーサリーも同じだよ。アンレイルシアの住人でしょ?」

 すると、フェイルも首を振る。真剣な表情だった。

 「そういうことを言ってるんじゃない。魔力の大きさの話。
  おまけにそれの使い方をちゃんと心得てる」
 「……でもっ!」
 「ナラル。君の気持ちはわからないでもないけど、それにしたって無茶だ。
  あれは普通のソーサリーじゃない。『旅をする者』なんだから」

 頭に疑問符を浮かべて首を傾げ、勢いの弱まるナラルの横から、

 「『旅をする者』?」

 カンナが口を挟んだ。
 フェイルは一瞬カンナを見て、視線を逸らし言う。

 「言っただろ? ソーサリーは集落の外に出たりはしない。
  だけど稀に、本当に稀に、集落から出るやつもいるんだ。それが『旅をする者』。
  こいつらは、戦い方を心得てる。魔獣にとってソーサリーも襲う対象だからね」

 ナラルはその様子を見て、不承不承ながらも頷く。
 フェイルは少しほっとしたような顔をして、それから頭を振りいつもの顔に戻った。

 「とにかく外れてしまった道を戻らないと……。ナラル、コンパス」

 すかさずナラルは鞄を開け、言われたものを取り出す。
 とにかく北東だよね、と呟きながらそれを見つめ、1つ頷いてナラルのちょうど前方を指差した。

 「こっち」

 だが、カンナたちがその指された方へ進もうとしたとき。

 ヒュンヒュンヒュン!

 「!」

 何かが風を切る音がして、またも木の葉が飛んできた。

 「逃がさない!」

 姿を現したのは、先程のソーサリー。

 「何でまた……離れたはずなのに」

 フェイルは小さく舌打ちを漏らして、実際にソーサリーを目の前にするとどうしても背を向けられないらしいナラルを掴む。
 カンナがついてきているのを横目で確認しながら、その場から逃げ出した。

 しかし、

 「待てっ!」

 なおも追って来るソーサリーを相手に逃げ切れるのかどうかはわからなかった。

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