第1話「奇妙な夢」 序章
「夢の終わりは」

 憶えていることの始まり。
 その一番初めは不思議な夢。
 奇妙な舞台とあいつとの出会いの、あの夢だ。
 奇妙な夢だった。普通、夢は目覚めるとだんだん霞みがかっていくものなのに、あの夢はどんどん鮮やかになっていって、今ではあいつの服の奇妙な紋様さえも絵に描けるほどなのだから。
 しかしその紋様は、今思い返してみれば、確かに光を表すものだった。

 いつもと同じ暗闇。
 しかしいつもと違いそこで終わらない夢。

 突然中央に一筋の光がさす。
 その筋は辺りをぼんやりとまるでスポットライトのように照らしだし、私はそこが舞台だと思った。
 別にそこが一段高いわけでも、観客席があるわけでもない。
 いやそれどころか、光の筋とその照らしだされる地面以外は、まったく視認不能の暗闇なのだ。
 それでも、私はそこが舞台だと思った。

 自分が立っているのか、それとも座っているのかさえ判らない。自分の感覚がすべて狂わされたような、そんな不安定さを感じる。
 私は少し身震いした。本当に体ごと震えたのかは判らなかった。
 そういえば、私の体は今存在しているのだろうか? そう思って手のひらを見ようとする。しかし暗くて見えない。
 たとえ私が今魂だけだとしても、私にはわからない。けれどそんなことはきっとどうでもいいことなのだ。何故だかそう思った。

 と、光の中に滲み出るように人が現れた。
 一見しただけでは男なのか女なのか判らない身体つき、いや服装だ。
 奇妙な服。まるでファンタジーの世界からそのまま出てきたような、ぞろりと裾を引きずり、大きめで体の線がわからない服だった。
 フードを目深にかぶり、さらに逆光で顔は全く見えない。
 そいつは、現れたときと同じように唐突に語りだした。

 「再び混沌を愛し
  破滅を望む者現れ
  世界崩壊に瀕す

  そのとき
  神の力を得し者現れ
  その力もて
  闇を排し
  世界を救わん」

 声を聞いてもやはり男か女か判らなかった。
 後から思うとあいつはそんな魔法を私にかけていたのだろう。
 そいつは一息吐き、また続ける。

 「世界がありました
  そこは数多ある世界の1つ
  “移りゆく世界”でした

  世界は原初、混沌に満ち
  そこより
  光の力を持った人間
  闇の力を持った人間が
  生まれ 争い そして
  神が現れ
  今は……」

 そこで言葉を切り、数秒してまた始める。

 「探索者は旅に出る
  自分の意味を見つけるために
  追求者は旅に出る
  選ばれし者を見つけるために

  夢の終わりは冒険の始まり
  光は消え、闇は隠れ
  天に昇れぬ神は中空に在り
  誰にも知れぬ明日を取り戻そう」

 その声は朗々と、とてもよく響いた。
 そいつの両手を広げる大げさな身振りと、その飾られた言葉もまた私にそこは舞台だと錯覚させたのかもしれない。
 まるで決められた台詞を読みあげるように、抑揚をつけながらも淡々と言い終えると、ふとこちらを向く。

 視線を、感じる。もちろん、そいつの目はフードに隠れていたけれど。
 私は確かに見られていた。

 そいつのフードに隠されていない口元が笑うように歪む。嬉しそうに、しかしどこか少し哀れむように。
 (やっと、見つけた)

 確かにその口がそんな言葉を綴った。
 少し寒気がしたのは気のせいだろうか。

 そいつはまた口を開く。今度ははっきりと。

 「光の簒奪者は
  追求者を見つけた
  光のカケラは
  探索者を見つけた

  我望むは、光
  歌詠姫の詩
  伝説の解除
  虚偽への断罪

  我は光のカケラ、世界の一片
  草原に在りて空と世界を観察する者
  我ここに希う
  探索者の物語への参加を!」

 そう言い終えたと同時に、光の中の空間が歪み、再び戻ったときにはそいつの姿はなく、やがて残った光の筋も、次第に細く消えてゆき、

 また最初の暗闇があった。

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