創世の章 プロローグ
「歴史書の紐解き」

 世界がありました。
 それは数多ある世界の1つ、“移りゆく世界”でした。
 その名の通り、その中で幾つもの文明が生まれ、そして消えていったのです。

 そしてそのときもまた、前にあった文明が滅び、世界はまた混沌の内にありました。
 長い長い時間が経ち、前の文明の面影を残す破片の散らばる無機物だけの世界に突然、光と闇が現れたのです。
 光と闇はそれぞれ人間を1人ずつ創り出し、その力としてそれぞれの体に宿りました。

 目覚めた2人の人間は、その強大な力をもって前文明の遺産のみが残った世界に、草原と森と海と空を創りました。
 そして光の力を持った人間は草原へ、闇の力を持った人間は森へ降り立ち、生物を創り出し始めました。

 最初に、闇の力を持った人間は紅の瞳の魔獣を創り、それに対抗するように光の力を持った人間は琥珀の瞳の鳥や獣を創りました。
 そして、光の力を持った人間が琥珀の瞳の妖精を創り、闇の力を持った人間が紅の瞳の人妖を創りました。
 闇の力を持った人間が、金の瞳と魔力ととがった耳を持つソーサリーを。光の力を持った人間が、翠の瞳と同じく魔力ととがった耳を持つスプライトを。
 こうして相反する生物が、同じ数だけ生まれたのです。

 そして最後に、光の力を持った人間は自らの姿に似せ、しかし魔力を持たない黒と茶の瞳の人間を創りました。対し、闇の力を持った人間は、初めて草原にものを創りました。即ち、国という概念を。

 人間は幾つもの国に分かれ、いつしか互いを憎悪し争い始めました。領地の問題、価値観の違い。そんな小さいけれど、しかし彼らにとって重大な問題によって民衆は死に、草原は血に染まったのです。
 幾百年もの長いときが過ぎ、1つの国が勝利し戦争が終わりました。王国であるその国の名はユミカルヴァイネ王国。王は第3代国王クレア=ニケ=ユミカルヴァイネ。そして草原には平和が戻り、人々にも笑顔が返りました。

 ――しかし、それまでに血が流れすぎました。
 自らの創った人間がお互いに争い、そしてスプライトがそれに巻き込まれるのを見て、光の力を持った人間は周りの声も聞こえないほどに嘆きました。
 そしてそれこそが、闇の力を持った人間の狙いだったのです。
 光の力を持った人間に出来た隙を見逃さず、闇の力を持った人間は光の力を持った人間を殺してしまい、そして世界のすべてを自らのものにしようとしました。
 原初の人間であり創造主ともいうべき闇の力を持った人間の力は強く、同じ大きさの力を持つ光の力を持った人間がいなくなってしまった今、それはまさに現実のものとなろうとしていました。

 けれども、その企みは成りませんでした。
 光の力を持った人間の死んだあとに残った光から、新たに神が生まれたのです。
 神はそれまでに最初の2人に創られた、どの種族でもありませんでした。神は秩序の体現だったのです。
 神は、その誕生に驚く闇の力を持った人間を“深き森”に封印し、森を小さく分けて、平原にばら撒きました。
 “深き森”がどこかわからないように。
 そして、闇の力を持った人間に創られた生物が、1つの軍勢として纏まらないように。

 その後自らは空の中ほどに“空を飛ぶもの”を造り、そこから今も私たちを見守っているのです。

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